Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

初夜

「薛洋、私があなたと床を共にするようになってどのくらいになりましたか?」
寝台の淵に並んで腰掛けていた時に、不意に暁星塵が話しかける。
「人聞きの悪い言い方をするなや道長。寝台が一つしかないんだから仕方ないだろ?」
「人聞きの悪い、って、ここには私たち二人しかいませんよ?それに『仕方なく』私と共寝していたのですか?」
何が面白いのか、暁星塵はケラケラと笑っている。
「だからその言い方。あんた俺を揶揄っているのか?」
「そうではないです。気を悪くしたのなら謝ります」
「別に謝るほどのことじゃねえけど、それ以上言うなら襲うぞ」
「いいですよ?」

「おい、ちょっと待てよ暁星塵。襲うってどういう意味だか分かってるのか?」
「私がいくら山育ちの世間知らずでも、そのくらいは知っています」
「やっぱり絶対あんた俺のこと揶揄ってる。何考えてるんだよ」
「あなたと同じことですよ、多分ですけど」
「俺と、……同じ?」
「私は、あなたに我が身を捧げたいと思っています、薛洋。もしかして、嫌ですか?」
薛洋はそれを聞いて派手に咳き込み、それから
「馬鹿なこと言わないでくれ道長。本気にするぞ」
と言って凄んだものの、暁星塵はまるで意に介さないように
「私はさっきからずっと本気ですよ?冗談でこんなことを言うほどにはスレていないつもりです。あーあ、せっかくあなたに、男らしく強引に迫らせてあげようと思ったのに。案外と初心だったんですね」
というと今度はクスクスと控えめに笑う。

「ちょっと、ちょっと待ってくれ、暁星塵。あんたが何言ってるのか頭がおいつかない。……つまり、あんたは俺とやりたいってこと?」
「あなたの言い方で言うならそうですね。私の言い方だと『我が身を捧げる』です」
そういってまたクスクス笑う。
道長、あんたそういう人間だったのか?」
「そういう、とは?」
「誰とでも寝る、だよ。とてもそうは見えなかったが」
「誰とでもは寝ないですよ、多分。少なくともこれまでは誰とも寝たことがないですから。これから先のことはまだわかりませんけれど、きっとあなた以外とは寝ないんじゃないかな」
「あんた俺のこと殺したいほど憎んでるんじゃなかったのか?」
「そうですね、憎いと思う気持ちがなくなったわけじゃないです。でもそれ以上に、あなたの全部を受け入れたい気持ちのほうが強くなりました」
「俺を、受け入れる?」
「毒食らわば皿まで、ってところですかね。私はあなたを丸ごと理解したいと思ったから、我が身にあなたを受け入れたかったのです」
「あのな、どう考えても俺のほうが道長に迫られている気がするけど」
「嫌ですか?だったらこの話はなかったことに」
「嫌なわけないだろ!ただ、あんたやっぱりズレてるよ道長。『襲うぞ』に『いいですよ』って答えられたら、それ全然俺が男らしく迫ったことにならねえし」
「そうでしたか…やっぱり世間知らずはだめですね。ごめんなさい」
「謝ることじゃねえって。俺がいまどんだけ嬉しいと思って…」

薛洋の言葉を途中で遮って、暁星塵は彼の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。柔らかい、そっと触れるだけの口づけだったが、薛洋は我慢できず、唇を割って舌で口腔を侵しながら、両腕を背に回して強く抱きしめる。暁星塵の体から力が抜けて崩れ落ちそうになるのを支えながら、名残惜しそうに唇が離れる。
「ごめんなさい。本当はとても緊張しています。こんなこと初めてだから、どういう態度をとったらいいかわからなくて」
「無理するなよ道長。なるべく痛くないようにするから。もし途中で耐えられなくなったら言ってくれればそこで止めるから」
こくり、と頷いた暁星塵を、そっと寝台に横たえる。

そのあとはお互い無言だった。薛洋は暁星塵の身に着けているものをすべて脱がせると、全身に口づける。いつも髪につけているいい香りの香油を指に取って、緊張して固く閉ざされた蕾に塗り込み、差し入れる指を1本、2本と増やしゆっくりとほぐしていく。3本まで入るようになったところで、指を抜いたところに香油をたっぷり塗った陰茎をあてがうと、奥まで一気に差し貫きたい気持ちをなんとか抑えてゆっくりと繋がっていく。眉間に皺を寄せて痛みに耐える暁星塵の目を覆う包帯にやさしく口づけをおとすと、彼の唇が口づけをねだるように突き出される。薛洋の自制心はそこまでが限界だった。あとは己の求めるままに暁星塵の体を貪った。やがて薛洋は動きを止め、暁星塵の上に倒れこむ。しばらく呼吸を整えてから仰向けになり、暁星塵の頭を肩に抱き寄せる。

「ごめん道長。痛かっただろ?」
「思ってたよりは大丈夫。痛みよりも、あなたと繋がれたのが嬉しい」
「次はちゃんと、あんたもいけるようにするから、…って次があるんだよな?まさかこれ一回ってことは」
「だから『我が身を捧げる』って言ってるじゃないですか。一回きりのつもりだったらそんなことは言いません」
「ずっとずっと、道長のことが欲しかった。…夢じゃないよな」
薛洋の声が震えている。
「泣いてるんですか?」
暁星塵は上半身を起こして薛洋の顔を覗き込むと、瞼に口づけて涙を吸った。

 

「薛洋、ひとつ、お願いがあります」
「何?」
「宋道長を、自由にしてほしい」
「それはできない。あいつ自由にしたら、あんた連れて二人でどこかへ行ってしまうだろ?」
「私があなたから決して離れないと約束したら?」
「あいつがそれで納得すると思うか?」
「彼には、もう伝えてあります。私は薛洋と生きていくと決めたから、もう子琛と共に歩くことはできないと。私の決意が固いのはわかってくれているはずです」
「……わかった。なんとかする。けど、そんなことより、一番大事なことを聞いてなかった」
「なんですか?私に答えられることならば」
「あんたは、俺のこと、好きなの?」
「好きでもない人に我が身を捧げたいと思うほどには自分を粗末にしてはいないつもりです」
「そういう言い方じゃなくて、俺が聞きたいのは」
「『愛している』って言ったら、信じますか?」
「信じられないだろうな」
「だったら答えません」

それはもう「愛している」と言っているのと同じではないか。薛洋は暁星塵を強く抱きしめた。