Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

花火(R-18)

半年前。

蒸し暑い夜にふと目を覚ました暁星塵は、一つしかない寝台のすぐ隣で息を荒げている小友に気がついた。
「どうしたのです?具合が悪いのですか?」

と問うと、
「あ、いや、そんなんじゃないから」
と答えがあった。様子が気になるので
「苦しいのでしたら背中をさすります」
と言って背中に右手で触れると、しばらくされるままに背中をさすられていた薛洋は、
道長、俺のここ、触ってくれる?そうしたら具合良くなるから」
といい、手首を掴むと自分の陰茎に触れさせた。

「ごめんなさい、その、慰めていたのですね」
暁星塵は山育ちで世俗には疎いが、流石にその行為が何なのかは知っていた。とはいえ、彼自身はそのような欲求に駆られたことがなかったので、困ってしまった。
「私はどうすればいいですか?」
「ここを握って、柔らかく」
と言って道長の手に自分のものを握らせると外側から自分の手を添えてゆっくりと動かす。
「こんな感じでいいのですか?」
とドギマギしながら訊ねると、
道長の手、冷たくて気持ちいい」
とうっとりした口調で答えた。

手の中のものは最初に触れた時よりひと回り大きく硬くなったように思えた。薛洋の呼吸が荒くなり、掠れた声で言う。
「もう少し強く握って、ちょっと早く擦って」
言われるままに手の動きを早めると、薛洋はうっ、っと一声うめいた。手の中のものは何度か跳ね上がったあと、粘っこい液体を噴出し、柔らかくなった。
「これでよかったのですか?」
手巾で手を拭いながらまだ息が落ち着かない様子の小友に声をかけると、いきなり道長の首に腕を回し、頭を抱き寄せると口づけをした。驚いて突き放そうとするも、強く抱きしめられて身動きが取れなくなってしまう。

口の中をなぞる舌の動きに、体の力が抜けてしまう。抵抗が弱まったと見た薛洋は、片手を下へとずらし、暁星塵の衣の中に手を入れ、握る。逃れようともがいても腕の中から抜け出すことができない。身体の中心辺りにヒュン、と不思議な感触があって、腰を引こうとするが、しっかり抱きしめられてしまう。
「離して、ください」
唇が離れた時やっとの思いで口にするが、その唇はすぐにまた塞がれてしまう。その間にも自分のものを握っている手は指を絡め、やわやわとさするように動く。全身が熱くなり、呼吸ができない。腰が勝手に動いてしまう。頭の中に濃い霧がかかったようで、何も考えることができない。初めての感覚に戸惑いながらも、なかなか放出するところまではいけなかった。先端からちょろりと白濁が漏れ出し、硬かったものは芯を失いゆらりと垂れる。完全に腰が抜けてしまった暁星塵を小友は強く抱きしめると、髪を撫でる。
「あの、あなたの手が汚れて…」
「気にするな道長
「…はい」
そのあとは二人とも無言で、抱き合ったまま寝台に横になった。少しすると薛洋は寝息を立て始めた。

なぜかはわからないが、暁星塵の胸の奥はぽわっと暖かくなった。

 

翌朝。
道長、目が覚めたか?」
小友の様子はいつもと変わらない。気まずくなるかと思っていたが何事もなかったようでホッとする暁星塵。
そしていつものような一日が過ぎ、また夜が来た。

「おやすみなさい」
と言って背を向けて眠ろうとすると、後ろから抱きしめられた。そしてまた身体の中心を握られる。思わず腰をひこうとすると、背中側にピッタリと薛洋の身体がくっついている。尾骶骨のあたりに何か硬いものが当たる感触がする。
道長、気持ちいい?」
「あの、駄目ですこんなことをしては」
「何故?」
「他人の私的な部分に、勝手に触れてはいけない」
「こんなに大きくしてるのに?」
揶揄うように言われ、困惑する。もちろん暁星塵とて勃起したことはあるが、それはこれまで単なる生理的な反応だった。前夜のことも、ただ刺激に反応しただけに過ぎない。
けれどその時は違った。茎を上下に擦り上げられ頭の部分を親指で撫でられながら繰り返し耳元で
「気持ちいいだろ?」
「感じるだろ?」
と囁かれているうちに、腰の辺りのジリジリした感じや自分のものを握っている手の感触、うなじにかかる荒い息使いや耳の穴に差し入れられた舌の感触まで、触れられている感覚の全てに「快感」という名前が付けられたようだった。

それまで暁星塵にとって「気持ちいい」とは、例えば喉が渇いた時に飲み干す一杯の水であるとか、冷え切った体を温泉で温めるとか、心地よい音律を耳にするとかそう言った種類のものだった。この時の感覚は明らかにそういうものとは違うのに、身体の奥から喜びが溢れ出すように感じた。

…気持ちいい。

しかしそれを口にするのも、感じるまま声を上げるのも恥ずかしくてたまらず、下唇を噛んで堪える。やがて、何もない眼窩の奥で火花が散り、腰が勝手に薛洋の手に押し付けられるようにカクカクと動く。とうとう抑えきれずに
「ああっ」
と一声発すると、放出した。

道長、どうだった?」
「すみません、またあなたの手を…」
「だからそれはいいって。気持ちよかっただろ?」
顔が赤くなる。恥ずかしくてたまらない。やっとの思いで
「はい」
というと、
「そうじゃなくて、気持ちよかった、とか感じた、とか言ってほしいんだけどな俺は」
と促され、小さな声で
「気持ち、良かったです」
と口に出す。薛洋はクスクス 笑いながら
「だろ?素直に気持ちいいっていえばもっと気持ち良くなるから」
と揶揄う。信じられない。あれ以上のものがあるのだろうか。

「で、相談なんだけど、道長、俺のもこんなになってるから、やってくれない?」
と手を掴まれ握らされる。手に伝わる熱い脈動が、なぜかとても愛おしく感じられた。
「あの、昨夜のようにすれば…?」
「いや、今日は口でしてくれない?」
「口で、ですか?」
意味がわからない。これを口でどうしろというのだろう。
「これを口で咥えて、舐めたり、吸ったり唇で扱いたりしてほしい」
「…わかりました」

言われたとおり握らされたものに顔を近づける。ビクビクと動いている弾力のあるそれを、両手で動かないように支えて恐る恐る唇を近づける。舌を伸ばして舐める。全体を口に含み、唇を窄ませる。どうやら小友は上顎の奥の柔らかいところに先端を擦り付けるのが好きなようだ。苦しくてうまく呼吸ができないが、なんとか鼻から呼吸を続ける。頭を掴まれ、前後に揺さぶられる。「ああ、気持ちいいよ道長。すごく感じる」
薛洋の言葉に恥ずかしさを感じるが、喜んでくれているのが嬉しかった。やがて薛洋は腰を何度か激しく振ると、喉の奥に放った。暁星塵は反射的に飲み込んでしまう。

薛洋が萎れたものを口から抜き出すと、暁星塵は咳き込んだ。薛洋は
「飲んだのか?…吐き出してもよかったのに」
と言いながら背中をさすり、それから
「口づけをねだってもいいんだぜ」
と笑って顔を両手で挟む。
「口づけ、してください」
やっと聴き取れるくらいの小さな声で暁星塵が言うと、柔らかく唇が重ねられた。