Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

月光(R-18)

宋嵐のほんの一瞬の隙をついて、薛洋は彼に向って毒を投げつけた。その毒は宋嵐から体の自由と声を奪った。たちまち全身の筋肉が力を失い、宋嵐は地面に人形のように倒れた。

「ちくしょう重いな、まあ、このへんにいてもらえばいいだろう」

薛洋は宋嵐の体を、彼らが住まいにしている義荘の、普段は使わない部屋に運んだ。その部屋は普段暁星塵が使っている寝台と壁一枚を隔てているのだが、壁板は隙間だらけで、見ようと思えば隣室を覗き見ることができる。

「これからいいものを見せてやるからな」

そういって例の人好きのする笑顔を宋嵐に向けると、部屋を出ていった。

 

日が暮れたころ宋嵐の耳に届いたのは、懐かしい知己の声だった。

「どうしたのですか、今日はずいぶんとご機嫌のようですね」

「ああ今日は昼間偶然昔の知り合いに会ってね」

「お友達ですか?こちらに連れてこられれば良かったのに」

「今日は急ぎの用があるから今度また改めて会いに来るって言ってたっけ」

「ではその時は私にも紹介してください。なにかおもてなしをしなくては」

道長はそんなことしなくていいよ。それよりさ」

なにやら耳元でささやいているらしい。

「そんなことを言わないでください。私は」

宋嵐が唯一動かせる眼球をなんとか動かして壁の隙間からとなりを見ると、窓から入る月光に暁星塵の純白の衣が照らされている。よく見れば、白く光る衣の上では二人の頭が非常に近い位置にあった。そして次の瞬間、二人は口づけを交わしていた。

……なんだこれは。いったい何が起きているんだ。

宋嵐は混乱した。目の前で起きている出来事は到底信じられるものではなかったのだが、それ以上に彼を打ちのめしたのは次の言葉だった。

「今日はいつもよりやさしいんですね、小友。あなたが優しいと、私も嬉しい」

「いいよ、座って道長。今日は俺が先にしてやるから」

そういうと薛洋は暁星塵を寝台に腰掛けさせ、自分はその脚の間にしゃがみこんだ。

月は暁星塵の全身を照らしていた。純白の衣をまとった色白の肌、漆黒の長い髪、そして目を覆う純白の包帯。それらはまるで画のように美しく、幻想的だった。宋嵐は目を背けたいと思いながらも、視線をそこから離すことができなかった。

薛洋は衣の前をはだけさせると、頭を股間へと伏せた。暁星塵はびくん、と頭をのけぞらせる。露になった白い喉の奥からは甘い声が漏れる。

「ああっ、そんな。いきなりそんな……」

「気持ちいいんなら気持ちいいって言ったほうがもっと気持ちよくなるぞ道長

「恥ずかしいのです。お願いですから、そんなこと言わないでください」

「俺は恥じらってる道長も好きだよ。だけど感じてるところはもっと好きだ。感じてるって言えよ道長

「ああ、感じています、小友」

暁星塵は頬を紅潮させ身をよじりながら、両方の腕で薛洋の頭を優しく抱き、長い指を髪に絡ませている。その下からはじゅぶじゅぶともぬちゃぬちゃともつかない音がわずかに聞こえてくる。

宋嵐は耳を塞ぎたかったが体の自由は利かないままだ。悪いことに自由がきかないことで余計に聴覚は研ぎ澄まされ、視覚は目の前で起きている痴態にくぎ付けになっていた。更に悲しいことに、知己の乱れる姿に彼自身のものも反応を見せていた。

「あぅそこは、そこはダメです。お願いです、そんなにされたら、ああっ」

暁星塵の言葉に切迫感が増す。息が苦しいのか肩が激しく上下している。もじもじとよじりあわせるようだった腰の動きが前後方向への素早い往復に代わると、

「ああ、だめ、出、出る、だめだったら」

と小さく叫ぶと、全身を震わせ、それから力が抜けていった。

足元から立ち上がった薛洋は無言のまま、ぐったりとした様子の暁星塵を抱き寄せると唇を重ねる。暁星塵の喉が何かを飲み下すように大きく動く。

道長、今日もいっぱい出たな、俺のはそんなに良かった?」

「そんな、恥ずかしいことを言わないでください。私はあなたしか知りません、小友」

「冗談だよ道長。そうやって恥じらってる道長はすごく愛らしくて、俺ももうこんなになってるんだ」

そういって薛洋は暁星塵の手を取ると、自分の股間に導く。

「握って。熱いだろ?道長があんなに感じてくれたから、俺もたまらなくなった」

目のまえで続いている悪夢のような光景以上に宋嵐を絶望させたのは、そのあとに暁星塵が発した言葉だった。

「楽にしてください。私がしますから」

仰向けに横たわった薛洋の股間を握っていた暁星塵は両手でいつくしむようにそれを包みこむと、ゆっくりと顔を近づけていった。綺麗な形の唇が開かれると、尖らせた真っ赤な舌が鈴口を割るように動く。透明な雫を嘗めとると、先端の丸みをすっぽりと口に含む。

「ああ道長、うまくなったな。本当に気持ちいいよ」

「そんなに、わざと恥ずかしがらせようとしないでください」

咥えていたものを口から外してそう言うと、暁星塵は薛洋の腰のあたりをまたいで膝立ちとなり、薛洋の中心を右手でささえ自分の入り口にあてがい、ゆっくりと腰を下ろしていった。

「ああ…」

下から突き上げられ、切なげな声を漏らす。羽織っていた真っ白い中衣がふわりと落ち、真っ白い痩身が露になった。自ら快感を求めて腰を振るたびに長い黒髪が揺れ、月明りに曝されたその裸身は神々しいまでに美しかった。

壁を隔てたわずかな距離しか離れていないのに、宋嵐にはそれがなにか別の世界の出来事のように思えた。

 

かつてまだ二人で旅をしていたころ、宋嵐はこの白皙の麗人をその手の冗談でからかってみたことがあった。その時に本当に消え入りそうな声で「山育ちはそういうものには疎いので」といい、顔を赤らめていたのを思い出す。あまりに恥ずかしそうだったので以後はその手の冗談を口にすることはやめたのだが、枕を並べて休んだ日など、自制心を失いそうになったことは何度もあった。この高潔な男は宋嵐にとっては、知己であると同時に、決して汚してはならない高嶺の花でもあった。

こうして現実に暁星塵が男と交わり快感に身もだえる姿を目にすると、現実感がない一方で怒りや悲しみや嫉妬やいろいろな感情が体の奥から沸き上がり、宋嵐のものもまた触れずとも固く立ち上がって先走りの液をだらだらと垂れ流している。

道長、俺、そろそろ終わるぞ。一緒に往けるか?」

「小友、あなたか、感じ、てくれ、て、うれ、しい」

暁星塵の途切れ途切れの言葉と息遣いは、明らかに再び上り詰める兆候を示している。薛洋は宋嵐のほうを見て、目が合うと片目を瞑って見せた。それから腰を突き上げる速度を増す。程なく「う」と「お」の中間くらいの短い声を出して、動きをとめた。辛そうに腰を振っていた暁星塵も、一つ大きく体を震わせると薛洋の上に倒れこんだ。そのまま荒い呼吸が鎮まっていく。

上体を起こした薛洋が暁星塵の腰を支えて自分の上から降ろすと、右手で頭を引き寄せ口づける。暁星塵は呼吸を整えながら

「またあなたを汚してしまいました」

と言って手巾を取り、薛洋の腹の上に自分が吐き出したものを拭おうと手探りする。薛洋は手巾を手から奪うと自分の腹を拭いながら、

「いいよ道長。俺も道長のなかにたっぷり出したし。それにしても本当に道長は感じやすくなったよなあ」

という。

「…あなたのせいですよ、小友」

からかいの言葉に少し嬉しそうな口調でそう答える暁星塵は、月光に照らされなおも美しかった。