Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

返り血を浴びすぎて

「戻ってきてほしい。君がいないと、私がおかしくなる」

やっと唇が離れた時、蓝忘机は懇願するように言った。そしてもう一度口付けようとした時、魏无羡がまた怒り出した。

「何を勝手なこと言ってるんだよ。お前本当に自分のことしか考えてないんだな」

「魏、婴?今なんて?」

「お前は自分のことしか考えてないって言った」

「話をさせてはくれないのか?」

「何故俺がお前に合わせないといけないんだ?縁を切ったのはそっちだろ?」

「縁を切ったつもりではなかった」

「はあ、お偉い含光君は、人を散々振り回しておいて『つもりではなかった』で済ませられるんた。随分舐められたもんだな俺も」

「魏婴、私が間違っていた。頼む、そんなふうに言わないでくれ」

そういうと魏无羡を立ち上がらせ、きつく抱きしめる。魏无羡は今度は抵抗せずされるままになっていた。

「蓝湛、一つ言っていいか?」

「なんでも聞く。君の望む通りに」

「俺を抱きたい?」

「ずっと、そう思っていた」

「じゃあいうけど、俺、阿楓と寝たから。それでもいいんなら、抱かれてやる」

蓝忘机は一瞬見たこともないほど悲しい表情になり、それから

「構わない。君でありさえすれば」

と言って、魏无羡の衣を脱がせ、自分も衣を脱ぐとそのまま魏无羡を寝台の上に押し倒した。

蓝忘机のものに貫かれながら、魏无羡は思った。もう長い間ずっとこうしたかったと。しかし、どうしてもそれを口に出すことができなかった。かつてあれほど饒舌に自分の感じるまま言葉を紡いだ唇は固く閉じられたままだ。

蓝忘机は何度も繰り返し

「魏婴、私の、魏婴」

と語りかけるが、答える声はない。ただ息遣いだけが荒くなり、そして時間が止まった。

 

「帰れよ、もう気は済んだだろ?」

「一緒に帰ろう、魏婴」

「まだ言ってるのか。お前にとってあれはそんなに簡単に覆せるものだったのか?その程度のもののために、俺がどれほど苦しんだのかお前にはわからないんだろうな蓝湛」

「いくらでも謝る。どんな償いでもする。だから、せめて話を聞いて欲しい」

「聞きたくない。それ聞いたら時間が巻き戻せるとでも?もう遅いんだよ蓝湛。俺たちの縁は、もう寿命が尽きたんだ」

 

「また来る」

蓝忘机がそう言い残して部屋から出るのと入れ違いに、阿楓が入ってきた。

「もう寝るぞ、阿楓」

「いいの?あの人泣いてたよ」

「泣いてた?蓝湛がか?」

「やっぱりあの人が蓝湛なんだね。羡哥の一番大切な人」

「大切『だった』、な。ほら、いいから早く寝ろ。蓝氏はすごい早起きだから、それより先に起きて出発するぞ」

「うん、おやすみ羡哥」

 

翌朝蓝氏の三人が目を覚ました時、と言っても含光君は明らかに一睡もできていない様子だったが、とにかく三人が起きた時には、隣の部屋には綺麗な紙に宿代を包んであり、二人は既に出発した後だった。

 

「兄上、ただいま戻りました」

「おかえり忘机。彼には会えたかい?」

「会えました。でも、話はできませんでした」

「…そうだろうね。彼の性分からして、今はまだ多分、お前の話を聞く余裕はないだろうね」

「でも話さねばならないのです」

「また会いに行く?」

「はい」

この不器用な弟があんなことを言い出した時、もっと強く止めるべきだったと蓝曦臣は後悔していた。忘机は自罰的だ。无羡をあそこまで傷つけてしまったからには許される資格もないと思い、許されないために許しを乞い続け、許されないために无羡に自分を傷つけさせる。その先の二人には、傷つけ合い苦しめ合うしか道はないように見える。そんなことではいけない、とは思うものの、それは忘机自身にしか解決できない問題である。彼ら自身以外の誰にも、見守る以外のことはできないのた。

 

それからしばらくの間、魏婴と阿楓の二人旅を先回りするように、時々蓝忘机が現れた。最初の時で懲りたのか、思追と景仪を同行させることもなく一人でふらりと現れ、話を聞いてほしいと懇願し、挑発されては体を重ね、罵倒され追い返される、そんな繰返しだった。

しかしそれも少しずつ間隔が長くなり、気がつくと前回の遭遇から半年以上が経っていた。

 

「最近見ないね、羡哥の大事な人」

「大事『だった』、な」

「今だって大事なくせに。じゃああの人より僕の方が大事だって言える?」

「…悪いな、やっぱりあいつの方が大事だ」

「でしょ?本当に羡哥は素直じゃないんだから」

「素直にならずにい続けるのも結構大変なんだぞ阿楓」

魏无羡は正直なところ、そろそろ意地を張り続けるのにも限界を感じていた。もし次に会った時に抱きしめられたら、「もう全部許すから蓝湛も俺を許して。それで雲深不知処に連れて帰ってよ」といわずにいる自信はなかった。

 

もし次に会ったら。