Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

薛洋を救いたいプロジェクトその8

艾渊が魏无羡と含光君に蔵書閣へ呼び出され長いこと話し込んでいたようだ、というのは座学に来ていた若い修士たちの間では話題になっていた。何を話したのかについて艾渊は「前に莲花坞でお会いした時にちょっと私が失礼なことをしてしまったから、その時のことを注意されただけ」としか言わなかったし、魏无羡や、ましてや含光君にそれをわざわざ訊ねようとする者はいなかった。

座学が休みになった日、魏无羡と蓝忘机は連れ立って彩衣鎮に出かけていた。座学組も今日は外出できることになったため、何人か連れ立って彩衣鎮に出かけることになったのを、それとなく見回りするためだった。昼食を取るために店に入って席に着いたところに、後から艾渊がやってきた。2人を見つけて拱手すると、例のあの笑顔を向けてくる。

「何か?」

少し不機嫌に含光君か問いかけると、艾渊は真面目な顔で、

「お二人にお話ししたいことが」 と言い出す。

「まあ、立ってないで座れよ」

と魏无羡に言われて勧められるままに座ろうすると「そこではない」と蓝忘机に睨まれる。

「本当にお前は心が狭いな蓝湛」

「魏婴の隣に座っていいのは私だけだ」

艾渊は何か言いたげにしていたが、諦めて蓝忘机の隣に腰掛ける。

「それで、話、とは?」

「献舎されて甦った霊識って、最初からその身体で生まれてきた霊識と、どう違うか、あ、もちろん中身が別物だと言うのはわかっているけれど、そうではなくて、同じことができるのかどうかってことを、ふと疑問に思ったのだけれども、夷陵老祖ならばご存知かと」

「それはそうとお前、薛洋の話し方を忘れたのか?」

「いや、忘れてはいないけれど、最近使わないから咄嗟に出てこない」

「なんか調子狂うよ、お前は薛洋のはずなのに

薛洋じゃないみたいだ」

「そりゃどうも。褒め言葉と受け取って良いですかね?」

「いや全然褒めてないけど。で、『同じこと』とは?」

「例えば、献舎とか」

「ちょっと待て、薛洋」

「あ、例えばの話だって」

いきなりの意外な話に、魏无羡は少し考え込んでから口を開く。

「身体がただの霊識の入れ物だとしたら可能かもしれない。だけれど、おそらくは違うだろうな。第一、仮にお前がこの先献舎するとして、その時お前の果たしたいことって、前世のお前のなのか、それとも今世のなのか、両方なのか、それはどこで判別されるのか。献舎で叶えられる願いはどんなことでもいい訳じゃない筈」

蓝忘机も頷いている。

「じゃあ、例えば俺がこの先死んで誰かがまたおれに献舎を試みたとして、俺はまた違う身体に入ることが出来るんだろうか?」

「それは出来るような気がするな。試したわけじゃないけど、過去の記録でもそれらしいものはなくもない。献舎自体がかなりたくさんの条件を満たしていないと成功しない筈だから確実ではないと思うけどね」

「そうか。やっぱ難しいんだな」

少しは薛洋の口調を思い出したのか、言葉遣いが少し荒くなったところに、魏无羡がツッコミを入れる。 

「あのな、俺は『献舎なんでも相談室』じゃないんだぞ。なんでも俺に聞けば分かると思うな」

その時、ちょうど同じように見回りに駆り出されていた景仪と思追が店に入って来た。

は「含光君、魏先輩。それに、艾公子」

拱手する2人に、艾渊はさっと立ち上がり拱手を返してから

「お邪魔しました」

と言って去っていった。

「ああお前たちここ座って。含光君が昼飯奢ってくれるぞ」

「あ、いえ、私たちはもう済ませました。あとは私たちで大丈夫なので、お二人は雲深不知処にお戻りくださいと伝えに来たところで」

見回りにもとっくに飽きていた魏无羡は、ばっと目を輝かせて立ち上がり蓝忘机の手を引いて立たせようとする。

「蓝湛!だったら買いものしてから帰ろうぜ」

「うむ」

2人を見送りながら景仪と思追は顔を見合わせる。

「本当に子供みたいな人だよね、魏先輩は」

 

蓝忘机の両手に持てるだけの天子笑を持たせて、魏无羡は上機嫌で雲深不知処へ戻った。

静室に入るなり

「魏婴、私は君が彼のことで悩んでいるのは嬉しくない」

と蓝忘机に言われ、初めは茶化して

「蓝湛、やきもち焼いてるのか?嬉しいなあ」

と返していたが、手首を掴まれて

「魏婴、私は真面目な話をしている」

と言われ、真顔で言った。

「まあ、俺も口出ししすぎだとは思っている。あとは本人に好きにさせるしかない」

「ただ、君と私は、彼が薛洋であることを知っている」

つまり、もし彼が薛洋であることが皆に知られた時、それを知りながら庇っていたとして、魏无羡の立場が非常に悪くなることが避けられない。ましてや彼は今現在は雲夢江氏の門弟であり、魏无羡は再び大恩ある江氏を裏切ったとみなされるのだ。そしてそれに加担したにせよ黙認したにせよ、蓝忘机の名声も穢される。

前世の魏无羡が温氏残党を助けて江氏を離れた時、温氏残党は温氏とはいえ悪事に加担していなかった、と言う名分があった。しかし今回は、よりによって清風明月晓星尘を自刎に追い込んだあの薛洋なのである。

「ま、俺は今更これ以上悪評が増えてもなんてことはないが、お前と蓝氏に傷がつくのは、なんとか避けないと。そうだな。俺が薛洋と連んでたのに蓝湛が気付いて俺がここから叩き出されると言うのはどう?」

「魏婴、それは本気で言ってるのか」

「いや全然、…このくらいかな」

左手の親指と人差し指の間をほんの少し開いて示す。

「そのくらいなら私が許すとでも?」

そう言うとさっと抹額を外し、瞬く間に魏无羡の左手をぐるぐる巻きにしてしまう。

「蓝湛お前はほんとに人を縛るのが好きだな」

「抹額で縛るのは君だけだ」

そのまま手首を掴んで頭の上で壁に押し付け、さらに体全体を壁ぎわまで押し込んで唇を重ねてくる。しばらくお互いの唇を味わったあと、やっと蓝忘机が離れると、魏无羡は

「でも今日はこっちの手は空いてるんだからな」

と右手を下に伸ばすと、蓝忘机のものを掴んだ。

「お前のこれくらいに指開いてたら、どうするんだ?」

という間にも、握った指が内側から開かされる。魏无羡が熱く脈打つ感触をしばし楽しんでいると、耳元で蓝忘机の息が少し荒くなるのを感じ、魏无羡はすっかり体の力が抜けてしまう。

「俺を寝床まで連れていってよ蓝湛」

「言われなくてもそうする」

寝台に仰向けに横たえられた魏无羡は両腕を大きく開いて蓝忘机を待った。蓝忘机は身につけていた衣を全て脱ぎ捨てると寝台に腰掛け、上半身を魏无羡に向け、それから頭をゆっくりと下ろして瞼に口付けた。

「蓝湛、たまには優しくヤる気分なのか?」

「黙りなさい」

「だから毎回言うけど黙らせたかったら禁言を」

そこまで言ったところで唇で物理的に禁言をかけられる。蓝忘机はそのまま魏无羡の衣を剥ぎ取り、肌を重ねた。さっきの悪戯で十分に立ち上がっていたものを魏无羡の入り口にあてがうと、躊躇いなく一気に一番奥まで貫く。

「蓝湛蓝湛、なんだよ今日は優しくしてくれるのかと思ったのに。お前のは大きいんだから、そんな勢いよくされたら内臓がつぶれるだろ」

「魏婴、君といると我慢できない」

そう、いつだって魏婴といるとすぐにでも一つになりたいし、一つになると他のことは考えられなくなる。ただ魏婴を感じ、自分を感じさせたい。蓝忘机はそのためなら他の全てを失うことも怖くはなかった。