Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

薛洋を救いたいプロジェクトその3(18禁)

「彼が本当に薛洋であるのならば、やはり江宗主には伝えるべきではないのか?」

蓝忘机にそう問われて、魏无羡は考え込んだ。自分の目から見ると、彼が薛洋であることはほぼ確実に思えるし、蓝湛もその点では一致している。しかし、どこにも証拠はない。

そもそも艾渊は見る限り金凌と同じくらいの年頃である。薛洋が死んでまだ1年も経っていない。もし献舎されたとしてもここ数ヶ月以内のことだろう。10代後半で入門する者もいないことはないが、幼くして入門したものに比べれば修為もなかなか高くはならないはず。あの剣の冴えからは霊力も修為も相当に高いことがうかがえる。その矛盾はどう解けるのだろうか。

「昨日の用事だが」

「ああそうだ昨日の用事、もしかして、あの艾渊に関係のある話なのか?」

「小さな世家が閉じることになり、内弟子を何人か江氏で引き取ったらしい」

「あのさ、なんでそんなに大事な話を昨日は黙っていたんだよ蓝湛?」

「君が、剣を向けられていたから」

「俺?」

「一刻も早くここに連れ帰ることしか頭になかった」

申し訳なさそうな表情を浮かべた蓝湛を見て魏婴はこみ上げる愛おしさを抑えきれず、駆け寄って抱きついた。魏无羡から口づけをねだられては蓝忘机に断るという選択肢は存在しない。

「まだ夕餉前だからな」悪戯っぽく笑うと、魏无羡は蓝忘机の足元に膝をつき、真っ白い衣の中に頭から潜り込んで下腹部に顔を埋める。触れられる前から既に熱を帯び脈打つ部分は、絡めた舌に素早く反応して上向きに反り上がる。

「顎が外れそうだよ含光君…」

衣の中から聞こえる声に恥ずかしさを覚えるが、魏婴の頭を引き離すこともできない。困惑と快感と、何よりも今自分に触れ自分を貪っているのが天から与えられた唯一無二の我が半身であるその事実が、体の芯から湧き上がる幸福感となって蓝忘机を満たしていた。愛しい人の姿を見たくなって衣を捲り上げると、魏婴は「飲ませてよ、蓝湛」と上目遣いで微笑みかけ、愛らしい真っ赤な唇で再び重厚なものに挑んでゆく。頭に手を伸ばして髪をかき乱す。程なく強い感覚が身体中を走り、喉の奥に熱を叩きつける。

口づけようと彼の顔の高さにまで屈み込むと、魏婴は目を白黒させながら唇の前に両手の人差し指でバツを作り、喉仏を大きく上下させてから、一つ大きく息を吸う。

「含光君、お前毎日毎日あんなにしてるのに、なんでいつもこんなにたくさん出すんだ?」

「君のせいだ」

こんな時でも忘れずに憎まれ口を発する唇を、強引に塞ぐ。

 

ここ暫く夕餉は静室で摂ることが殆どだ。その内容も魏无羡の好みに合わせた辛いものや味の濃いものや肉が多い。もちろん蓝忘机の手料理である。何度か「今日は俺が作るから含光君は座ってて」というのでいう通りに任せたら、重量の半分が唐辛子粉かと思われるほどの赤一色のものばかり3皿も出てきた。魏婴の作るものならなんでも喜んで食べたかったのだが、一口食べる毎にお茶を3杯ずつ飲んでもしばらく声が掠れたままとなり、流石に身の危険を感じた蓝忘机は魏无羡の好みそうな料理の腕を磨くことで問題を解決した。今日も卓に並ぶのは魏婴の好物ばかりだ。それと天子笑。

 

蓝忘机の簡潔すぎる説明を魏无羡が脳内で補間しつつ整理したところによれば、閉鎖した世家はもともと小規模で、門弟も10人程度だったが、その中に一際素質のある少年がいた。研究熱心で素直な性格、結丹もかなり早く、修為も過去に例がないほどの速さで高まっていったが、それだけ他の門弟、特に兄弟子からの妬みを買うようになり、最初は持ち物を隠すなど軽いいたずら程度だったのが、やがて誰も挨拶すら返さず一言も話しかけなくなり、もともと内向的で繊細だった少年は心を病んでいった。宗主には蓝湛も何度かあったことがあるが、几帳面さが取り柄のようなそれほど強くない男で、いじめを知っていても強く咎めはできなかったであろうことは想像に難くなかった。
数月前のある日、少年を含む数人で夜狩に出かけ、そのまま少年だけが帰ってこなかった。他の世家にも協力を頼んで捜索したが何日もみつからず、一緒に夜狩に行った者を問い詰めると、兄弟子たちは渋々、自分たちが画策して彼を危険な場所に置き去りにしたことを認めた。ふた月ほどたってやっと少年が見つかった。少年は別人のように外向的で明るくなった一方、そのころから兄弟子たちはひとりまたひとり、夜狩で命を落としたり二度と剣が持てない大怪我を負ったりして減っていき、最後には宗主が両脚を失う事故が起きて、世家を維持することが困難になったために、残った門弟のうち数人を江氏が引き取ったという話だ。江澄が隠していたのは、元の宗主としばらくは公表を控えると約束していたからだ、とのこと。

「別人のように、ってまあ実際別人なのだから当然だけれど」

「うむ」

「これで薛洋が死んでからの時間と修為の矛盾は解けたわけだ」

しかしまだ謎は残る。献舎の手順を一体彼はどこで知ったのか。そしてなぜ薛洋だったのか。