命名(R-18)
「魏嬰、君は、あの剣をどうするつもりなんだ?」
藍忘機が突然言い出した。「あの剣」とは、かつて雲深不知処から追い出されて放浪していた頃、ふと知り合って旅の伴となった美少年に身を守るための剣術を教える為に自分用に手に入れたものだった。とある城下の古道具屋で手に入れたその剣は買った値段の割にはまあまあ悪くはないものではあったが、かつての相棒であった随便とは較ぶべくもないものであった。少なくともその時点では。
それでも、今のまだ出来立ての金丹には相応しいといえなくもなかったし、剣を見てくれた藍曦臣は「たしかにこれは悪くない。それどころか案外と掘り出し物であるかも」と言うし、藍啓仁からも「剣はそれを持つ者が育てるものでもある」と言われ、当面はその剣を持つことにした。
「その剣を佩くのであれば、ふさわしい名前をつけるのが剣に対する礼儀だ」
と藍忘機はいうのだが、そもそもあの霊剣に「随便」と命名してしまう魏無羨には、それほど名前に対する拘りがない。名前をつけろと言われて、
「吃醋」
だの
「咸魚」
だの
「奇葩」
だのとろくなことを言わないので、その度に藍忘機から睨まれていた。
「んもうそんなにダメ出しするんならめんどくさいから藍湛が決めてよ」
と投げやりになった魏無羨に対し、普段は道侶に甘々な藍忘機もさすがに呆れて
「ちゃんとした名前を考えるまでは天子笑を飲むの禁止」
と言い出す。やむを得ず真面目に考えようとした魏無羨は、とりあえずあたりを散歩していい名前が浮かぶのを待とうと思った。
「魏嬰、どこへ?」
「とりあえず林檎ちゃんに相談してみる」
「ならば私も行く」
「あのなあ。雲深不知処の中歩く時くらい、ついてこなくても大丈夫だってば」
「私がついていきたいのだ」
目を離している間にいなくなりそうな気がして怖い、とは言わなかったが、そう思っていることを表情から読み取ってしまった魏無羨は、
「しかたないなあ俺の美人ちゃんはわがままで。いいよ一緒に行こう」
と答える。どっちがわがままなんだか、と少しだけ苦笑して、二人で兎たちと林檎ちゃんの棲家へと向かう。
林檎ちゃんはいつもどおり兎たちに囲まれて昼寝をしているところだった。何匹かの兎は二人が来たことに気付いて駆け寄ってくるが、林檎ちゃんは眠ったまま。魏無羨は足に上ろうとする兎を抱き上げると、
「なあ、『玄兎』っていうのはどうだ?」
と傍らの藍忘機に尋ねる。藍忘機も足元から兎を抱き上げながら
「名前としては悪くない。ただ、あの剣にはふさわしくない」
という。
しばらく前に魏無羨が結丹後初めてその剣を抜いた時、その剣芒にそこにいた藍氏の門弟たちが騒然となった。剣芒の色は、多くは青や白、水色など寒色が多いのだが、なんと虹色の光を放ったのだ。それは生まれたての金丹と同じく決して力強いものではなかったが、
「その剣はおそらくこれまでも人を救ってきた剣なのだろう。なにか暖かい思いのようなものをその剣芒に感じる」
その時に藍忘機がそんなことを言っていたのをふと思い出した。暖かみのある剣にはもっと温かみのある名を、藍忘機がふさわしくないといったのはそういう意味なのだろう。
「どういう謂れであの剣はあの古道具屋へたどり着いて俺の手元に来ることになったんだろうな。これも縁なのかもしれない」
君がそれを引き寄せているのだ、と心の中で思いながら、
「多分あれの元の持ち主は、俺と同じで名前に拘りがなかったんだろうな。でなければ、もともと呼ばれていた名前があるはずだと思うし」
確かに、剣を調べても名前の刻まれた形跡も、消された痕跡もなかった。とりあえず藍氏の剣籍簿には「(無名)」として記載されている。
「いっそ本当に『無名』で良くない?」
と魏無羨は提案したが、それでは「随便」の時と同じことになってしまう。なんとしても魏無羨に命名の責任というものを理解させたかった藍忘機は即座に却下した。
「ほんとはさ、俺、軟剣もいいなと思っていたんだ。『白衣』とかさ」
「君は『白衣』をどこで手に入れるつもりなんだ」
「そりゃ長明山で」
「君の身体はまだ雪山へ行けるほど丈夫ではない」
というと藍忘機は抱いていた兎を下ろし、魏無羨の腰に手を回して自分の身体に引き寄せた。
「ほら、こんなに冷えている」
両腕を背に回して強く抱きしめると、魏無羨はちょっと拗ねたように
「お前は俺を甘やかしすぎだ、藍湛。せっかく結丹したのに、それじゃ鍛錬にならない」
という。藍忘機は
「君の霊力は君がずっと私の隣にいるために全て使えばいい。君を守るのは私がする」
と言って顔を覗き込む。他の人には冷たく硬い色に見える玻璃の瞳は、そこに映るものが魏無羨であるときには限りなく暖かく柔らかい。
「守られるばかりなのは嫌なんだけど」
となるべく藍忘機の機嫌を損ねないように魏無羨としてはめずらしくおずおずと口にすると
「君が隣にいることがどれほど私を強くしているか、まだわからない?」
といって、触れるだけの優しい口づけをしてきた。啄むように何度も触れてくる唇に魏無羨は
「藍湛の唇はあったかいな。もう寒くない」
と囁いてから、
「もっと熱いほうが好きだろ?」
と続け、そのあと片目をつぶって
「さすがにここでは挿れるのは勘弁な?」
と、衣の中へ右手を入れる。脈うつその部分が発する熱を確かめるように柔らかく握ると、藍忘機は
「私にも触れさせてくれ、君の熱に」
と魏無羨の衣の外側から立ち上がりかけたものに左手で触れ、そっと撫でながら
「直に、触れたい」
と珍しく許可を求めてくる。
「俺はお前のものなんだから好きにしていいっていつも言ってるだろ。お前に触れられて嫌なはずがない」
そう答えた魏無羨は、左腕を藍忘機の頸に回し少し背伸びをして唇を合わせる。藍忘機も右腕を魏無羨の腰に回して支えると口づけに応えながら、左手を衣の中へと差し入れ、直にそのものを握った。衣の外から触れた時より明らかに硬く大きくなったものからは力強い拍動が伝わってくる。
しばらくは互いのものを扱きつつ口づけを繰り返していたが、次第に息が荒く激しくなってきた藍忘機は
「魏嬰、どうしても我慢できない」
と呟き、右腕で魏無羨の左ひざを持ち上げるとそのまま木に押し付けた。
「お、おい藍湛、さすがにここでは」
と言う途中で唇は唇で塞がれ、陽物を濡らしている粘液が露わになった蕾の周りに塗りたくられる。まだ十分に解れたとは言い難かったが、既に藍忘機のものにも馴染んだその部分は軋みながらも受け入れていった。
「…っおうふ。腹ん中いっぱいだよ藍湛。ただでさえお前のは大きいのに、中に入ると倍くらい大きくなってるだろこれ」
「さすがに倍にはならない」
「挿れる時よりその後のほうがずっと大きいとか、お前の身体は本当に、…おい見掛け倒しの逆ってなんていうんだ?」
「能ある鷹は爪を隠す、だ」
「お前は爪なんか全然隠してないだろ」
「魏嬰、君以外は誰も知らないし、今後も君以外が知ることはない」
「お前は俺ん中に出すからいいとして、俺が出すとお前の衣が汚れるぞ藍湛」
「構わない」
「俺が構う」
「ならば、私の手の中に出しなさい」
そういうと腰の動きを速めつつ、魏無羨の先端を左の掌ですっぽりと包み込む。柔らかく擦られながら奥の一番いいところを突かれると、魏無羨は目を開けて居られず瞼を固く閉じて首を激しく左右に振りたて、
「もう、もう出るからっ。藍湛藍湛、一緒にいって」
と叫ぶ。藍忘機は仰け反った魏無羨の喉を甘噛みすると、掌に魏無羨の迸りを受け止めたのを確かめ、自分も一番奥に放った。
「あのなあ、百万回くらい言ってると思うけど、噛むなよ藍湛」
「百万回もは聞いていない。127回だ」
「それだけ聞けば十分だろ?」
「私のものだと確かめずにはいられない」
藍忘機は持ち上げていた道侶の左ひざを地面におろすと、はだけていた衣を直す。
やっと呼吸が落ち着いてきた魏無羨が瞼を開く。最初に目に飛び込んできたのは、虹色に輝く雲だった。
「うわあ藍湛、空、見て見ろよ。すごい綺麗だ」
ゆっくり振り返り空を見た藍忘機がつぶやく。
「…彩雲、か。吉祥だな」
「あ、それいただき。あの剣の名は『彩雲』にする」