Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

薛洋を救いたいプロジェクトその5

「魏兄!それに含光君も。どうしたのですかこんなところに」

「聂宗主」

「こんなところとは失礼だろう、聂兄。ちょっと聞きたいことがあって钱宗主のところにきたんだけど、聂兄こそどう言う用事で」

「钱宗主の門弟を清河でも何人か一時的に預かっていたのですが、正式にうちで引き取ることになったので置いたままになっていた持ち物を取りに来たのですよ。ほら、あそこにいる小さい子たち」

「ふーん、江澄のところだけじゃないんだ」

「雲夢へ行ったのは年長の弟子ですね。本来の繋がりで言えば私どもは金氏に近いのですが、金氏の宗主はまだお若くていらっしゃるから…失礼しました。钱です」

車椅子で奥から出てきた钱宗主は、江澄や蓝忘机より少し年長か、という年恰好だった。

「お久しぶりです、钱宗主」

「仙督、お久しぶりです。私どもにおりました艾渊が何かやらかしたそうで、本来なら私の方からお伺いすべきでしたが、申し訳ありません」

 

艾渊本人に話を聞くことに難色を示した蓝忘机は、まずは彼を一番よく知るであろう、彼の元宗主に話を聞こうと提案し、魏无羡もそれを受け入れた。かつて金氏の客卿であったこともある钱宗主は、決して傑出した人物というわけではなかったが、生真面目で謙虚な人柄で魏无羡は好ましい印象を受けた。

 

「あの子は幼い頃に両親を亡くして、妹と二人で親類の家で育てられていたんですが、その親類がうちへ連れてきたのです。もともと剣も弓も得意で頭も良い子でした。けれどどうにも兄弟子たちとの折り合いが良くなくて、いつも遠慮して一人でいたのですが、いっぺん家出して戻ってきたらすっかり見違えるようにちゃんと自分を主張できるようになったんですよ。それで私も安心していたのですが、残念ながら私がこんなことになってしまったので、本人の希望もあって江宗主にお願いすることになったのです」

「家出?」

「だと私は思っています。あの子はしっかりしているので、たとえ夜狩で他とはぐれても、危険なところへ迷い込んだりはしないと思います。もちろん、わざわざ阿渊だけを置いて帰ってきた者たちには罰を与えましたがね」

「そして彼が戻ってきたそのあとで、兄弟子たちが次々と事故に?」

「亡くなった二人については、元々少々自分の力量を過信しているようなところがあったんで、気をつけるようには言っていたのですが、阿渊に張り合ってしまったのでしょう。そのほかの大怪我した者たちは、私の指導不足で、油断をしていたのだと思います。その時でも、年少の者たちは阿渊が適切に行動したので、かすり傷一つ負わなかったんですよ。本当にあの子の判断力には頭が下がります」

「よほど気に入っていらっしゃったのですね」

「素質のある子でしたからどうしても目をかけてしまうのですが、それがかえって良くなかったのかもしれません。私が贔屓しているように兄弟子たちが思ってしまい、それで意地悪をされていたようです。だんだん彼が孤立していったときでも、私がそれを咎めればかえって兄弟子たちからの風当たりが強くなると思って、彼には我慢するようにしか言えませんでした」

「それで、家出から戻って、彼にはどんな変化が?」

「前であれば兄弟子に悪口やイヤミを言われても、言い返すこともなく黙り込んで内にこもっていたのですが、戻ってからは言い返すようになりましたね。それから、年下の子に対して、前は遠慮して言えないようなところがあったのですが、きちんと注意したりなにかと面倒見がよくなりましたね。ただ前と比べると、私含め年長者に対する態度は少しぞんざいになったような気はします。私のような頼りない師匠で不満があったのかもしれません」

 

「魏婴、君はどう思った?」

御剣して帰る途中、蓝忘机に聞かれて答える。

「計画的に家出したのか、置き去りにされたのをちょうどいい契機だと思ったのかはわからないけど、その時に献舎したのは間違いないだろうね。俺の時は、晴らさなきゃならない恨みの内容も混乱していて読み解くのに相当苦労したのだけれど、かなり賢い子だったようだから、きっとわかりやすく書き残してあったんだろうな」

「うむ」

「ただ、何故こんな子どもが、そこまで思い詰めたのか、自分の魂が消えてなくなる恐怖を越えるほどの恨みだったんだろうか、それがひとつ。あと、やっぱりどうしても薛洋と結びつかないんだよ。それを考えるとやっぱり本人に会わないわけには」

仕方がない、と苦い顔になった蓝忘机は、ずっと引っかかっていたことを口にした。

「君は、何故そこまでこの件にが気になる?」

「随便」

「随便?」

「あの剣は元々江氏のものだ。それに俺にはもうあれを扱える霊力はない。蓝湛も前に、あれは霊力の高い剣だから敬意を持てって言ってたよな。だったらそれに相応しい持ち主に託すべき、だと思う。もしあいつが、ちゃんと生き直したいと思っているのならば、本当に江氏双傑になるのならば」

かつて雲深不知処で初めてやり合った時のことを思い出す。蓝忘机にとってははじめての、同世代で自分と互角に剣を使う少年との出会いだった。

「君はそれで良いのか?」

「使えないものを持っていても仕方ないだろう?それに、江澄だってあれを使うはずもないし」

「魏婴…」

寂しそうに笑う姿を見て、蓝忘机は魏无羡の腰に回していた手に力を込めて引き寄せる。魏无羡はたちまち夢心地になって頭を肩に預けた。

「今は随便じゃなくて避塵の持ち主がおれを守ってくれてるんだろ?」

 

「ところで、御剣してる最中にここ握ったらどうなるんだ?」

「…やめなさい。今は触るな」

「蓝湛でもやっぱり心が乱れるのか?」

「元々私はそれほど冷静な人間ではない」

それはよく知ってる、と魏无羡は思った。蓝湛は人並外れて情熱的だ。それを、超人的な意志の力で普段は全くないように見せているだけ。

「じゃあ、今度雪がうんと積もって落ちても怪我しない時に、御剣しながら俺がお前のを、っ言うのはどうかな?」

「……考えておく」

早く帰ってこの減らず口の繰り出される唇をなんとかしなければ、と蓝忘机は先を急いだ。