Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

聂怀桑の憂鬱(薛洋を救いたいプロジェクト息抜き)

聂怀桑は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の金光瑶を除かなくてはならないと決意した。

 

しかし何からすれば良いのか最初は途方に暮れた。私には卓越した霊力も刀術の腕もない。頭脳だって姑苏蓝氏の座学でかろうじて落第しない程度でしかない。あるのは人に警戒心を起こさせない、自分で言うのも烏滸がましいが柔和な雰囲気と、こまめに動き回れる腰の軽さだけだ。

 

-----

そしてかの邪智暴虐の金光瑶を除くことにはなんとか成功した。約二名には私のしたことがバレてしまったようだが、幸いにも二人はそのことで私を責めたりはしなかった。二人とも過去よりは今と未来を重視しているらしい。特に片方は、私のお膳立てによって、彼の大事な人とこの世で再び見えることができて喜んでいるようにさえ見える。

 

とはいえ、献舎によって魂を天地に返した者のことを、考えないではなかった。兄の伴で時々訪れた金麟台でいつも寂しそうにしていた美しい少年は、金光瑶のように階段の一番上から蹴り落とされることこそなかったものの、食事の内容も差別され、見るたびにやつれていく彼に、何度か食べ物をそっと渡したことがある。優しく賢く、たまに本などを貸すと目を輝かせてお礼を言ってくれたが、少年から青年になる頃になっても修行は進まず、明らかに修士には不向きだった。まあそれをいえば私も修士には向いていなかったのだが。

久しぶりに会った時に、色々お世話になりました、実家に帰ることになりましたと暗い表情で言った。実家でも蘭陵金氏にいる時とあまり変わらないか、むしろそれ以上に肩身が狭いらしかったが、それでも宗主が外に作った息子が次々に謎の死を遂げて、これ以上ここに留まるのは危ないと思ったらしい。怪しまれず実家に帰るためわざと追い出されようとあんな方法をとったのか、それとも本当に彼が断袖であったのか、それについては私は知らない。

夷陵老祖つまり敬愛する魏兄の書き残した呪術に関するいくつかの書付けを彼の好きだった本に紛れ込ませて餞別代わりに渡した。それが彼の役に立ってくれることを祈りながら。

私もその時点では、彼が献舎するほどまで追い込まれることになると確信していたわけではない。いくつか蒔いた種の一つでしかなかった。いや、正直にいえば、莫家荘に置いた兄上の左手が邪祟を呼び込めば、その家の一番弱いところに皺寄せがくることは十分予想できていた。そういう意味では、彼の魂がこの世から失われたことの直接のきっかけは、私が作ったことになるのだろう。

 

彼の身体は今、敬愛する魏兄の魂と共にあり、日々を楽しそうに過ごしている。美味い酒に、信頼する人との充実した毎日。そんな幸せを、しかし彼自身の魂は知ることがない。

仕方がない。献舎とはそういうものなのだ。それを全て承知で彼自身が選択したこと。私にはそうとしかいえない。もし私にできることがあるとするなら、彼が身体だけでも、この先の生を健やかに過ごせるよう祈ることだけだ。

 

しかし、どこから話が漏れたのか、夷陵老祖の書付けの写しはどこで手に入るのか、ととある仙家のまだ年若い仙師から尋ねられた。私は知らないと言ったのだが、見るとその少年は明らかにひどいいじめにあっているようにみえた。あくまでも、彼が自分の身を守るのに役立てるために、と私は彼が偶然書付けを目にする機会をお膳立てした。

あとは彼次第。私は知らない。