Another Words

突然創作を載せたり載せなかったりします。

唐突に魔道祖師の二次創作(一部18禁かも)をしてみる。

「なあ蓝湛、献舎したヤツの魂ってそのあとどうなるんだ?」

「どうなる、とは?」

「いや、『魂を天地に返す』っていうけど、返された魂はその後どこかへ行くんだろうか、って思って。ただ消えてしまうのかな」

「呪術については私よりも君のほうがずっと詳しい」

蓝忘机はそう言って視線を手元の本に戻す。最近の魏婴は「俺の目に映る赤とお前の目に映る赤は本当に同じなのか」とか「誰の耳にも届かない深い森の奥で木が倒れた時音はしたのか」のような答えにくい質問をふっかけ、なんと答えようか考える姿に「含光君は眉間にしわ寄せていても美人だなあ」とからかうのが日課になっていた。最初は今日の問もそのたぐいだろうと思ってそっけない答えを返したものの、珍しく黙り込んだ魏婴に少し不安を感じて、本から顔を上げ視界に彼の姿を確認する。いつもより少しだけ悲しそうな顔を発見して、ゆっくり本を閉じて立ち上がり、柱にもたれて座っている魏婴のとなりに腰を下ろすと、魏婴が肩に頭を預けてくる。

「呼び戻された時はなぜ俺なんだ?と思ったけど、あいつの恨みを晴らし終わった今となると、俺は好きな時に天子笑も飲めるし、金凌や阿苑の成長も見れるし、何より蓝湛みたいな美人さんと毎日一緒にいられるし、自分だけすごく得している気がして後ろめたいんだよな」

「君だけ、ではない」

正直な話、蓝忘机もこれまでそのことを一度も考えなかったわけではない。元の魏无羡より華奢なこの身体も、激しい口づけに精いっぱい応える柔らかい唇も、「蓝湛、もっと犯してくれ」とせがみ理性を失わせる甘い声も、もともとは魏婴の言うところの「あいつ」、莫玄羽のものだったのだ。
全てが明らかとなった今となれば、莫玄羽の恨みは利用されただけだと言えなくもない。一問三不知と呼ばれたあの男の見た目とは裏腹に周到極まりない復讐計画の最後の切り札として夷陵老祖の力がどうしても必要だったとしても、そのために莫玄羽の魂は正気を失うほど苦しみ抜いたまま永遠にこの世から消え去ることになったのだ。そのことは小さな棘となって心の中でちくちくとか細い痛みをもたらしている。

「俺がおいしいもの食った時に、この舌だけでもあいつと繋がってて『旨い』って感じてくれてるといいんだけど」

冗談めかして笑っている魏无羡だが、元々彼は全ての世家を敵に回してでも弱い者虐げられた者の側に立ってきた男だった。感じている痛みは自分が感じているものより遥かに強いだろう、そう思うと蓝忘机は魏无羡の頸に手を伸ばし頭を自分の胸へと引き寄せずにはいられなかった。
「いつもいい匂いだな蓝湛は」魏婴はいつもの明るい声色に戻り「お前のいい匂いは俺だけのものだけどな」と大げさに深呼吸をする。

 

「含光君、魏先輩、金凌…じゃなかった金宗主がお見えです」
部屋の外から思追が声をかけてきた。宗主の仕事で忙しいはずの金凌だが、なにかと時間を見つけては姑苏まで訪ねてくる。その目的はたいていの場合思追と景仪の二人なのだが、思追は魏无羡が金凌をいつも気にかけていることを熟知しており、必ず静室の二人にも声をかけてくる。蓝忘机と魏无羡が連れ立って客間へ向かうと、お茶菓子を不思議そうに見つめる金凌がいた。
「ここで甘いものが出てくるとか珍しいな」
「あ、それはこの前聂宗主から贈られて来たんだよ」
「でもこれ、清河のじゃなくて兰陵のだよ。瑶叔父上が大事なお客さんの時によく出してた」
景仪と金凌のそんな会話に魏无羡が割って入る。
「だったら金凌、お前も手土産に持って来いよ。旨いんだぞこれ、知ってるだろうが」


蓝忘机は顔には出さなかったがほんの少しだけ胸がちくりとした。莫玄羽は兰陵金氏で何年かを過ごしている。もしかすると莫玄羽のそのころの好物だったのではないか。さっきの会話からそんな考えが心の片隅に浮かんだが、魏无羡は特に気にする様子もなく、お茶菓子をひとつ摘まみ上げて半分に割ると「はいこれは含光君の分」と手渡してくる。「相変わらず仲のよろしいことで」という金凌の嫌味にも「お前の叔父に聞いてみろよ。魏无羡は昔から美味しいものはみんなに分け与える心の広い兄弟子だったんだぞ」と答えて笑っていた。

思追と景仪が金凌に連れ出されて夜狩に出かけ、蓝忘机と魏无羡も静室へと戻った。

「魏婴、君はいつあの菓子を…?」

「あー含光君、もしかして俺は兰陵に悪い記憶しかないとか思ってるだろ?」

「違うのか?」

「金麟台では確かに碌なことがなかったけど。そういえばいつ食べたんだろうなあれ。まあいいじゃん。そんなことよりも蓝湛、明日は出かける予定じゃないよな?」

こくり、と頷く蓝忘机の頸に両手を絡め、魏无羡が「今夜は寝かさない、って言ってよ含光君」と甘えた声で囁く。蓝忘机は答えを口にするより前に、その唇に吸い寄せられていた。

 

いつものように魏无羡が放った熱を鳩尾辺りに感じながら、蓝忘机も魏无羡の奥深くで熱く迸った。「魏婴…」「蓝湛、蓝二哥哥、凄く、凄く良かった。絶対にこれは俺だけのものだよな」いつもの太陽のような笑顔で微笑む。この笑顔は間違いなく魏婴のものだ。蓝忘机は再び自らが漲るのを感じ、どうやら今夜は本当に寝かさないことになりそうだと思った。

 

 

「あれ?そういえば」金凌は突然思い出したことを口にした。「瑶叔父上がいた頃、あいつはあの茶菓子を食べたことはない筈なんだ。いい菓子だから結丹してない奴の分はないとか爺さんが言ってて、あいつの分だけがなかったんだよ。おんなじ顔なのにあれが美味しいって言ってるのを聞くと凄く妙な感じがする」

「魏先輩は美味しいものはなんでも好きですからね」

「聂宗主もわかんないことするよな。清河にだって菓子はあるってのにわざわざ兰陵の菓子を贈るとか」

口々に好き勝手なことを言いながら、夜は更けていった。