誰も読まない自作解説「縁の寿命」
というわけで、途中まで結構アクセスが伸びていた「縁の寿命」です。
これはtwitterにも書いたりしたように、「全部失って心がからっぽでもそれでも生きる」っていう話、結構忘羨の死別を書いた二次創作はあるんですが、二人が別の道を行く系がないよなあと思って、どうしても書きたくて書いたやつです。なんですが、最後日和ったので水曜どうでしょうみたいな結末になりました。その上、肝心なところ、つまり蓝湛が執着を手放すに至る経緯がほとんど書けてません。なのでダメなやつなんですが。
コメント見ると肯定的な評価はなくはないのですが、前半に比べると閲覧数とかも少ないし、やっぱりこういうの見たくない人は多いのだろうな。いやそれより自分がほとんど書けてない部分をちゃんと書かないからいけないのだろうけど。
なんかね、自分って頭の中で話が出来てしまうと、結末を早く書きたくなってしまうので途中すっ飛ばす傾向にあるなと。なので次なにか書くとしたらもう少し途中をはしょらないで書きたいと思います。
「知己のままで」についての誰も読まないあとがき
ええと、この話当初の予定では
「宋嵐が間違って暁星塵を死なせてしまい、怒った薛洋が宋嵐を刺し殺して、
ふたりともを傀儡とするけれど、暁星塵を人形を愛でるように愛でつつ宋嵐をこきつかう」
というかなりムナクソの悪い話になるはずでした。が、
途中で薛洋が暁星塵に胸に抱かれて死ぬのが美しいなと思ってしまったので、そうしてしまった、と。
まあどうでもいいですね。
誰も読まない自作解説「少年」
「ひとつだけの生きる理由」から「后会有期」まではpixivに「少年」というシリーズものとしてupしたものなのですが、これちょっと解説。
魔道祖師の本編って、三人称なんだけど完全に魏无羡視点で書かれているんですよね。彼が見聞きし体験したものとして全部の出来事が記述されている。で、それをなぞってみたわけです。
視点の主は晓星尘。彼は目が見えない(自分に起因するトラブルで目を失った知己に自分の眼球を与え、自らは盲目で生きることを選んだ)わけなんですが、そんなわけで視覚情報がない状態での記述・描写を試みました。最終章である「后会有期」では、彼は視覚を取り戻しているわけなんですが、それとともに描写は俯瞰になっています。
ちなみにおまけの2編「山に行った話」と「山から下りてきた話」は息抜きで書いたのです。薛洋キャラ代わりすぎだろう、はお許しください。
后会有期
「また背が伸びたのでは?もうすぐ追いつかれてしまいますね」
薄墨の衣をまとった背の高い方の男が、傍らにいる深緋の衣の男に話しかける。話しかけられた方はえくぼが特徴的な顔をほころばせる。
「それにしても、私の師匠を根負けさせるとは、あなたは本当に大したものです。おかげで私はだいぶ嫌味を言われましたけど。二度も戻ってきたのはお前だけだって」
少し年上に見える薄墨の衣のほうはそう言ってくすくすと笑い始める。若い方の深緋の男は呆れ顔で
「ほんとあんたの笑いのツボはどこにあるんだか未だにわかんねえよ」
と言うが、目は笑っている。
深緋の衣の男は、前髪で隠れた右目に衣と同じ色の眼帯をしている。わずかに幼さを残したその顔だちは、見る人に親近感を抱かせる明るい笑顔の美青年だ。
薄墨の衣の男は、色白で鼻筋の通った、ともすれば冷たい印象を与えかねない美貌だが、実際にはしょっちゅうくすくすと笑っているせいで優し気に見える。相方とお揃いの左目の眼帯には、結晶のような白銀の刺繍が施されている。
「私もまさか、あなたがあんなことを言い出すとは思いませんでした。かつては小指のために一家を…」
「おっとそこまでだ道長。あんたのためなら片目くらいお安いもんだ。なんと言っても俺の自慢の道侶だからな」
そういうと相方の髪を手に取って匂いを嗅ぐ。
「こら、人が見ますよ、恥ずかしいじゃないですか」
たちまち耳までほの赤く染めて立ち止まる薄墨の衣の男は、深緋の衣の男に腰を抱かれて、頭を肩に預ける。二人の見つめる先には、新しく建てられたばかりの剣術道場があった。門には「白雪閣」の扁額がかかっていて、入門希望と思しき少年らが門前で誰かを待っている。
「やっと完成しましたね。ここまであなたも大変だったでしょう?」
「俺の苦労なんて大したことじゃない。もうすぐ『彼』がやってくるだろうから、あとは彼に任せて、その前に俺たちはここを去ろう。次は、どこへ行きたい?」
「薛洋、あなたと一緒ならどこでもいいですよ。あ、海が見たいかな」
「じゃあ海だ。なんなら船でどこかへ行くのも悪くないな」
その二日後、拂雪を背負った長身の男が門前に現れた。彼は手に持った手紙と扁額とを何度も見比べて、信じられない、という顔をしていたが、やがて入門希望者に筆談で問いかける。
「本当に私のようなものの弟子になりたいのか?」
少年たちは口を揃えて
「是」
と答える。皆、彼の事情は承知の上で、傲雪淩霜と呼ばれた彼の指導を受けたい者ばかりだった。
道場を建てて立ち去った二人組のその後の消息は誰も知らない。
初夜
「薛洋、私があなたと床を共にするようになってどのくらいになりましたか?」
寝台の淵に並んで腰掛けていた時に、不意に暁星塵が話しかける。
「人聞きの悪い言い方をするなや道長。寝台が一つしかないんだから仕方ないだろ?」
「人聞きの悪い、って、ここには私たち二人しかいませんよ?それに『仕方なく』私と共寝していたのですか?」
何が面白いのか、暁星塵はケラケラと笑っている。
「だからその言い方。あんた俺を揶揄っているのか?」
「そうではないです。気を悪くしたのなら謝ります」
「別に謝るほどのことじゃねえけど、それ以上言うなら襲うぞ」
「いいですよ?」
「おい、ちょっと待てよ暁星塵。襲うってどういう意味だか分かってるのか?」
「私がいくら山育ちの世間知らずでも、そのくらいは知っています」
「やっぱり絶対あんた俺のこと揶揄ってる。何考えてるんだよ」
「あなたと同じことですよ、多分ですけど」
「俺と、……同じ?」
「私は、あなたに我が身を捧げたいと思っています、薛洋。もしかして、嫌ですか?」
薛洋はそれを聞いて派手に咳き込み、それから
「馬鹿なこと言わないでくれ道長。本気にするぞ」
と言って凄んだものの、暁星塵はまるで意に介さないように
「私はさっきからずっと本気ですよ?冗談でこんなことを言うほどにはスレていないつもりです。あーあ、せっかくあなたに、男らしく強引に迫らせてあげようと思ったのに。案外と初心だったんですね」
というと今度はクスクスと控えめに笑う。
「ちょっと、ちょっと待ってくれ、暁星塵。あんたが何言ってるのか頭がおいつかない。……つまり、あんたは俺とやりたいってこと?」
「あなたの言い方で言うならそうですね。私の言い方だと『我が身を捧げる』です」
そういってまたクスクス笑う。
「道長、あんたそういう人間だったのか?」
「そういう、とは?」
「誰とでも寝る、だよ。とてもそうは見えなかったが」
「誰とでもは寝ないですよ、多分。少なくともこれまでは誰とも寝たことがないですから。これから先のことはまだわかりませんけれど、きっとあなた以外とは寝ないんじゃないかな」
「あんた俺のこと殺したいほど憎んでるんじゃなかったのか?」
「そうですね、憎いと思う気持ちがなくなったわけじゃないです。でもそれ以上に、あなたの全部を受け入れたい気持ちのほうが強くなりました」
「俺を、受け入れる?」
「毒食らわば皿まで、ってところですかね。私はあなたを丸ごと理解したいと思ったから、我が身にあなたを受け入れたかったのです」
「あのな、どう考えても俺のほうが道長に迫られている気がするけど」
「嫌ですか?だったらこの話はなかったことに」
「嫌なわけないだろ!ただ、あんたやっぱりズレてるよ道長。『襲うぞ』に『いいですよ』って答えられたら、それ全然俺が男らしく迫ったことにならねえし」
「そうでしたか…やっぱり世間知らずはだめですね。ごめんなさい」
「謝ることじゃねえって。俺がいまどんだけ嬉しいと思って…」
薛洋の言葉を途中で遮って、暁星塵は彼の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。柔らかい、そっと触れるだけの口づけだったが、薛洋は我慢できず、唇を割って舌で口腔を侵しながら、両腕を背に回して強く抱きしめる。暁星塵の体から力が抜けて崩れ落ちそうになるのを支えながら、名残惜しそうに唇が離れる。
「ごめんなさい。本当はとても緊張しています。こんなこと初めてだから、どういう態度をとったらいいかわからなくて」
「無理するなよ道長。なるべく痛くないようにするから。もし途中で耐えられなくなったら言ってくれればそこで止めるから」
こくり、と頷いた暁星塵を、そっと寝台に横たえる。
そのあとはお互い無言だった。薛洋は暁星塵の身に着けているものをすべて脱がせると、全身に口づける。いつも髪につけているいい香りの香油を指に取って、緊張して固く閉ざされた蕾に塗り込み、差し入れる指を1本、2本と増やしゆっくりとほぐしていく。3本まで入るようになったところで、指を抜いたところに香油をたっぷり塗った陰茎をあてがうと、奥まで一気に差し貫きたい気持ちをなんとか抑えてゆっくりと繋がっていく。眉間に皺を寄せて痛みに耐える暁星塵の目を覆う包帯にやさしく口づけをおとすと、彼の唇が口づけをねだるように突き出される。薛洋の自制心はそこまでが限界だった。あとは己の求めるままに暁星塵の体を貪った。やがて薛洋は動きを止め、暁星塵の上に倒れこむ。しばらく呼吸を整えてから仰向けになり、暁星塵の頭を肩に抱き寄せる。
「ごめん道長。痛かっただろ?」
「思ってたよりは大丈夫。痛みよりも、あなたと繋がれたのが嬉しい」
「次はちゃんと、あんたもいけるようにするから、…って次があるんだよな?まさかこれ一回ってことは」
「だから『我が身を捧げる』って言ってるじゃないですか。一回きりのつもりだったらそんなことは言いません」
「ずっとずっと、道長のことが欲しかった。…夢じゃないよな」
薛洋の声が震えている。
「泣いてるんですか?」
暁星塵は上半身を起こして薛洋の顔を覗き込むと、瞼に口づけて涙を吸った。
「薛洋、ひとつ、お願いがあります」
「何?」
「宋道長を、自由にしてほしい」
「それはできない。あいつ自由にしたら、あんた連れて二人でどこかへ行ってしまうだろ?」
「私があなたから決して離れないと約束したら?」
「あいつがそれで納得すると思うか?」
「彼には、もう伝えてあります。私は薛洋と生きていくと決めたから、もう子琛と共に歩くことはできないと。私の決意が固いのはわかってくれているはずです」
「……わかった。なんとかする。けど、そんなことより、一番大事なことを聞いてなかった」
「なんですか?私に答えられることならば」
「あんたは、俺のこと、好きなの?」
「好きでもない人に我が身を捧げたいと思うほどには自分を粗末にしてはいないつもりです」
「そういう言い方じゃなくて、俺が聞きたいのは」
「『愛している』って言ったら、信じますか?」
「信じられないだろうな」
「だったら答えません」
それはもう「愛している」と言っているのと同じではないか。薛洋は暁星塵を強く抱きしめた。
決別の辞
ねえ子琛、君に、聞いてほしい話がある。
君がここにいることを知っていたのに、私はずっとここに来ることができなかった。君に合わせる顔がなかった。自分の犯した罪に向き合う強さがなかった。私には、私自身が考えていたよりずっと弱い、小さい心しかなかったからね。
だけどいつまでも目を背けていても何も変わらないし、いつまでも今のままではいられないから、自分の気持ちに整理がついたところで、今日はちゃんと話そうと思う。
返事はできなくても、聞こえているんだよね、子琛。
あれからいろいろ考えた。最初は、死んでしまいたいと思った。そうすれば君のそばに行けると思ったし、そうしない限り君に許されないと思った。だけどできなかった。天は私をそんなに簡単には死なせてくれないのだと思った。次に、薛洋を殺して君や、私が誤って殺めてしまった人たちの仇を討って、それから命を絶とうと考えた。実は今でもそれは気持ちの中にある。選択肢としてはとっておいてある。
だけどね。
天がなぜ私を生かしたのか。なぜ死なせなかったのか。きっと理由があるはずだと思ってずっと考えていた。そして一つ思い当たったことがあった。
世を正す、なんて、目の前にいる、間違った道を選ばざるを得なかったたった一人をさえ正せない人間に、そんなこと出来っこないんだ。私の力は小さくて、世を正すにはとても足りないけれど、一人の道ならば、そばにいることで正せるのかもしれない。
薛洋はきっと、ずっと一人で寂しかったんだよ。誰も頼れる人もなく、信じられる人もいない。自分が何を言おうと信じてもらえず、近寄ってくるのは自分を蔑みつつ利用しようとする人間だけ。もし自分がそうだったら、私も彼のようになっていたのかもしれない。たまたま私は運がよく、彼はそうではなかっただけなのではないかな。
だから、私が彼を、信じようと思う。
君は私を愚かだと思うかもしれないね、子琛。私も、自分がとても馬鹿げたことを考えているのかもしれないとわかっている。でもね。私が共にいる以上、彼にはもうこれ以上罪は犯させない。彼の負うべき罪を共に背負い、彼の進むべき道を共に進んで正していくことが、天が私を死なせなかった理由なんだと思う。
もし私では彼を止められないようだったら、その時は彼とともに私を殺してほしい。
彼に、君を自由にしてくれるように頼んでみるつもりだ。彼がそんなことをするはずがないと思うかい?でも頼んでみる意味はあるよね。よくわからないけど、きっと彼は私の願いならひとつくらいは聞いてくれると思う。なら、私は他の何よりもそれを願ってみるよ。
そしてこれは、私から君に対する別れの挨拶でもある。私は彼と同じ道を行くことにしたから、これから先、君とは行けない。せっかく君が私を探し出してくれたのに、君の命を奪った上に、交わした誓いを守ることもできない。そのことについては本当にどんなに詫びても許されることではないと分かっているから、好きなだけ責めてくれても恨んでくれてもかまわないし、この命を差し出してもいい。全部受け入れるよ。
ただ、私を殺すのならば、薛洋も共に殺してくれ。彼を殺したいのならば、私も共に。
私の唯一のかけがえのない友、子琛。君の志がかなうことを信じている。
薄荷の飴
薛洋の熱が下がった後、再び前のような暮らしが始まった。ただし、もう暁星塵は繋がれてはいない。それでも暁星塵は義荘を離れてはいかなかった。
彼の正体が薛洋であることを知るまで、暁星塵にとっての彼は「少々、いやだいぶ口が悪いが、お節介でよく気がつく、甘いものの好きな生意気な少年」だった。その全てが芝居や偽りだったのだろうか?人は自分の本性をそんなに完全に隠し切れるものではない、と思う。残忍な手口で人を殺し欺く薛洋も、飴が毎日欲しかったと言っていた彼も、どちらも本物の薛洋なのだろう。
親の顔を知らない暁星塵は、抱山散人に拾われて育ち、その高潔さを月に喩えられる人物となった。同じように親の顔を知らない薛洋は、大人に騙され小指を失い捻くれていき、誰からも忌み嫌われる悪党となった。暁星塵自身と薛洋自身との資質や努力や心掛けのようなものの違いだけが理由だろうか?もし天の気まぐれが二人の運命を分けたのだとすれば、今の立場がそっくり入れ替わっていたとしてもおかしくはないのだ。
自分はまだ恵まれていたのだ、そう気づいた時に、暁星塵は今までの自分がどれほど傲慢であったのかを知った。正しいこと、正しくあれること、正しくあろうとすることが、既に恵まれたものの特権であるのかもしれない。そこまで思いが至った時に、『薛洋を亡き者として自分も死ぬ』では何も問題が解決しないのだと理解した。
しかしそれでもなお、人は正しくあるべきなのだと、それは揺らぐことのない信念として暁星塵の中にあった。であるならば、自分にこれからできることはなんなのだろうか。
寝台に並んで横になった時、暁星塵が薛洋に話しかけた。
「あなたが昼間、どこで何をしているのか、知ってしまいました」
「え?」
「何故言ってくれなかったのですか?」
「それより、なんで知ってるんだよ道長」
「あなたが熱で意識のない時に、米麺屋の方が訪ねてきました」
「あ、ああ、そういえばそんなこと言ってたなあの親父」
「私のためにまじめに働きたい、と言っていたと聞きました」
「あの親父余計なことを。まあ、あんたにもう少し栄養付けさせたかったし、悪いことして買ったものじゃあんたが食べてくれないと思ったから」
「そうですね。餓死してやろうとも考えてましたから。あなたはそうまでして、何故私を生かしておきたいのですか?」
「…欲しかったからだよ」
「え?今なんて?」
「飴が、あんたのくれる飴が毎日欲しかったって、それだけだよっ!」
「…あの?本当にそれだけ?」
「それだけだよ」
何故だかおかしくなってしまった暁星塵は、小さくくすくすと笑い始めた。
「なんだよ、笑うようなことかよ」
「ごめんなさい。あなたが薛洋だと知って、もうあの小友はいなくなってしまったのかと思っていました。考えたら同じ人間なんですよね。じゃあ、手を出して下さい」
薛洋が言われるままに手のひらを上にして手を差し出すと、暁星塵は両手でその手を確かめてから片手を懐に入れ、飴を手のひらに一つ置く。
「はい、これ」
薛洋は照れ臭い@qのか何も返事をしなかったが、カサコソと飴の包み紙を開く音がした。
「おやすみなさい、薛洋」
そう言って背を向けて寝ようとすると、薛洋は少し震えたような声で
「ありがとう、道長。あと、ごめん」
と言った。